青春は鉄錆の味①
この前まで更新していたものは、打ち切りということにします。
今回は「青春は鉄錆の味」。つたない文章ではありますが、お暇な時間に読んでいただけたら幸いです。
私も暇な時間に書いていくようにします。
「青春は鉄錆の味」
北海道の桜は五月が見ごろである。日本列島の中で、北海道だけが唯一冷帯に属するため、桜の開花が遅れる。一番北で寒いから、ともいえる。
五月には大型連休がある。それはしばしば桜の開花の時期と重なり、お花見の定番スポットである円山公園や大通公園といった場所は家族連れなどでたいそう賑わいを見せる。観光地として一年中人気のある北海道だが、冬の雪景色とは違った趣が、見る人の心を潤わせているようだ。
そういった類の人混みは、おれはあまり得意としなかった。
高校生であるおれの周りには、桜を楽しむといった感性豊かな人間などまれであり、勉強か遊びか女のことで手一杯なものがあふれている。もとよりおれも御多分に漏れず勉強と遊びに明け暮れている。この前返ってきた模試の結果は悪くはないものの、まだ気が抜けないといった状況である、というのが本音だった。担任に進路のことで相談したところ、「お前はもう少し自分に自信を持て」と言われ、もやもやが心をかきまぜた。違う、そうじゃない。そういうことじゃないんだ。
朝は五時から始まる。はっきりと目が覚めるまでは幾分か時間がかかるから、その分早めに携帯のタイマーをセットしてある。目が覚めてから一時間ほど、勉強をする。その後で時間割を確認し、一階のリビングへ降りて朝食をとる。食後のコーヒーも欠かさない。
朝のニュース番組がせわしなく芸能情報を伝えるのを横目で確認しながら、顔を洗い歯磨きをして、寝癖を直す。おれの髪は短いので、たいていは水で濡らし、ドライヤーを使えば治る。
身支度を終えたら自転車にまたがり、通学路を駆ける。小学校の通学路とも重なっているため、安全運転を心がけるのは言うまでもない。ちなみに、自転車に関する注意も含め、おれが警察にお世話になったことは一度もない。当たり前の話と言われればそれまでのことだが、ちょっとした自負はある。
学校には二十分程で到着する。教室に入った後は、授業が始まるまで自習をして過ごす。そのうちにクラスメートが次々に登校してきて、自分の居場所をこじ開けることに時間を費やす。おれは変わらず自習を続ける。騒がしいのはあまり得意ではない。
何事もなく一日の授業をこなし、下校時刻を迎えると、足早に下駄箱を目指す。そそくさと自転車のカギを開け、朝通ったはずの道と同じ道を同じ時間で通り抜ける。下校時間は小学生とは違うので、実際は少し短いのかもしれないが、その分赤信号にかかることが多い気がするので、大差ないと考えている。
家に帰るや否や、携帯を確認する。来ているはずのない通知を確認したのち、堅苦しい制服を脱ぎ捨て、服も着ないままに二階の自室へこもる。そしてそのまま就寝。進級してからは遊ぶ余裕もなく、帰宅してからすぐに寝てしまうことが多い。
翌朝五時、同じ時刻に目が覚める。はっきりと目が覚めるまで数分かかり、その後勉強をする。
これがおれのすべてだ。
なんの特徴もない。なんのとりえもない。趣味の一つでもあればいいのだが、唯一趣味といえるコーヒーはクラスメートに「大人ぶっている」と一度言われ、それ以降は一切その話題を出していない。違う、そうじゃない。そういうことじゃないんだ。
代わり映えのない日常を、ただひたすら消化する。そこに意思はほとんど介在しない。思ったことをそのまま言ってはいけないというルールが、この世のどこを歩いていても我が物顔でおれを支配しようとする。
まるでロボットじゃないか。
おれは「おれ」である必要はあるのか。
時々そんな疑念がもたげてくる。だが、そいつは睡魔とともに翌朝には姿を消しているため、まともに取り合ったことはほとんどない。あったとしても、その記憶はおれの奥底で寝ているだろうから、すぐには出でこない。
桜の花びらも散り始め、小学校で運動会の練習が始まったころも、おれは変わらず用意された日常を消化していた。