5th-2017/1/11
年明け初の更新、変わりなく進めていこうと思う。
週末が訪れるのを待って、私は例の事件の調査に出かけた。
浩二からいつものように飲み会のお誘いが来たが、先日と変わらぬ断りの連絡を入れ、葉の枯れ落ちた防風林のそばを歩いた。
夏であれば葉が生い茂り、心地の良い日光を浴びながら散歩のできるこの場所は、愛犬を連れた老人たちの格好のたまり場となっているこの場所は、冬である今は昨日降った雪が少しばかり解けかけてるだけであった。
さすがに人への聞き込みはできず、死体が発見された大学構内も休日のため入るのがおっくうになり、仕方なく帰ろうとした頃。
「兄ちゃん、何してんだ」
くちゃくちゃとガムを噛みながら、50代と思しき男が突然話しかけてきた。
「何って、別に何もしてないですよ」
とっさの出来事であったが、私は平然を装い答えた。
「そうか。何か探しているようだったからな」
男は何か言いたげな様子だったが、特に何も言わずそばにあったベンチに腰掛け、先ほどのガムを吐き捨てた。
「だめですよ、汚い」
「気にするな」男はそういいながら、ポケットから新しいガムを取り出した。
瞬間、私は直感した。この男、何か知っているかもしれない。
理由はないが、少し探りを入れる、
「最近ここで殺人事件あったらしいですよ」
男は驚くそぶりもなしに、「そうか」と一蹴する。
ただ答える間に、男は私に鋭い一瞥をくれてやる。私は身震いした。
「なぁ」男が言う。
「人が死ぬとき、最期はどこに行きつくと思う?」
知るわけがない。自分の出生すら知らないのに。
「俺はな、無じゃねぇかと思うんだ」
デスノートですか、なんて言えるわけもなく、私はただ黙って聞いていた。
先ほどから何かおかしい。初対面の人にこんなことを聞かれたら、普通なら怖くて逃げるだろう。なのに、私は今こうしてそばで話を聞いている。何故だ。
「存在自体が消えて、何もなくなる。今まで築き上げたものも何もかも失う。そういうのって、どういう気分か分かるか」
「なんでそんなこと聞くんですか」
口を開いて、野暮だと思った。この男にこんなことを聞いても無駄だ。
「なんで、か」男は一瞬考え、
「似たことを経験しているから、だろうな」
意味が分からなかった。どういうことだろうか。
「え、それってどういうー」
「話の続きはまた今度だ、兄ちゃん」
そういうと男は立ち上がり、私に背を向けて歩き出した。
なんだったのだろうか。少なくとも普通の男ではない、ということだけはわかった気がした。
当初来た目的ー事件の調査ーなどどうでもよくなり、私は近くのラーメン屋で昼食をとってから家に帰った。
「おかえり」いつものように「F」の声がする。
「ただいま」
「どうだった?何かわかった?」
「わからなかった。へんなおっさんと話ししただけ」
「変なおっさんてなに。気になるなぁ」
「なんか、死んだらどうなると思うとか聞かれてさ。訳わかんなかったわ」
瞬間「F」が固まった。ように見えただけなのかもしれない。
「へぇ」「F」はただ一言返し、続けて、
「そういう変な人気を付けたほうがいいよ。もしかしたら人殺すかもしれないし」
と続けた。近頃は物騒だから、とつぶやく「F」を横目で見ながら、結局あの事件についてはわからず仕舞いなわけで、何が何だかわからない頭を押さえようと、部屋へ戻り勉強を始めた。
冬ももうすぐ終わり、フキノトウが咲き始める3月のことであった。
今日はここまでとしたい。